
6年ぶりに第17回目となる「埼玉まちづくり未来塾」を開催しました。
「埼玉まちづくり未来塾」は、私が師と仰ぐ宮本常一氏の「郷土大学」を土台に、地域プロデューサーを育成する「おうみ未来塾」などを参考に、地元の人が、地元の人から、地元を学び、地元の未来のために切磋琢磨する、垣根のない語り合いの場として始めたものです。※
2015年〜2019年まで、過去16回にわたり開催してきたものの、コロナ禍の影響などもあって、しばらく再開できずにおりました。
ところが最近になって、宮本常一さんに関するメディア露出が立て続けにあった他、生まれ故郷の周防大島とのご縁が幾つも重なり、この機会に「地域づくりの原点、宮本常一のフィールドワークを学び直したい」という想いから、未来塾で取り上げることとしました。
宮本常一さんは「民俗学」の文脈で語られることが多いのですが、学問というより実践の人。
むしろ「地域プロデューサー」の先輩として、現代に生きる私達は何を学べるのかという観点から未来塾のテーマを考えました。
▼埼玉まちづくり未来塾の概要▼
【目的】
①地域の壁、分野の壁、職種の壁、自分の壁を壊し、既にある埼玉の魅力を発見・共有・流通させること。
②メンバー同士が切磋琢磨する舞台をつくり、縁の力を梃子として、埼玉の人と地域をエンパワーすること。
【対象エリア】
埼玉県全域。
【メンバー】
建築・デザイン・編集・メディア・コンサル等の専門家、NPO、行政職員など多種多様(現在約380名)。
【大事にしていること】
メンバーは上下関係のない対等なパートナーであり、未来塾は互いに学び合う場。
評論より実践、実績より貢献、リスクより挑戦を重視。評論家とフリーライダーはお断り。
今回の舞台(会場)は、西埼玉の所沢エリアにある魅力的な「図書喫茶カンタカ」(住所は東京都東村山市)。
このあたりは、「トトロの森」として知られ、スタジオジブリの宮崎駿さんも宮本常一さんの愛読者でもあったようで、これほどピッタリな開催地はありません。
テーマは【地域の魅力を発見するフィールドワークからの学び】としました。
ゲストスピーカーに西埼玉暮らしの編集社の酒井希さんを迎え、会場には、驚くことにお隣の台湾や、神奈川県からの参加者も含め20名余りが集結。フィールドワークや地域資源への関心の高まりを実感します。
当日のプログラムは以下の通りです。
【当日のおおまかな流れ】
・主催者の齊藤から未来塾の主旨説明
・参加者の顔触れをご紹介
・宮本常一のフィールドワークと周防大島(特別映像の上映あり)
・ゲストスピーカー酒井希さんから周防大島の旅レポート
・フリートーク
・喫茶オーナー肥沼位昌さんから店舗紹介
ゲストの酒井さんからは、宮本常一さんの生まれ故郷・周防大島(山口県)の旅レポートを「父・善十郎の教え」や旅のトラブルに触れつつ、笑いも交えてお話しいただきました。
参加者の皆さんも多彩な顔触れだったので、時間が許せば一人ずつお話を伺いたかったのですが、泣く泣くその時間は割愛。
でも、集まった皆さんからは、宮本常一さんのエピソードや酒井さんの話を興味深く耳を傾けていらっしゃる様子から、熱量の高い面々が集まったことは疑いなく、改めて「人材こそが地域づくりの原動力」だと再認識させられました。
終了後は、ランチ等自由解散とし、参加者の有志で、隣の西所沢駅近くの「西埼玉暮らしの学校(サタデーブックス)」をお邪魔しました。
※「西埼玉暮らしの学校」については、別の記事でご紹介したいと思います。
なお、父・善十郎の教えは示唆に富む内容なので、全文掲載しておきます。
≪宮本常一の父・善十郎の教え10箇条≫
❶汽車に乗ったら窓から外を良く見よ。田や畑に何が植えられているか、育ちが良いか悪いか。村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうところをよく見よ。
駅に着いたら人の乗り降りに注意せよ。そして、どういう服装をしているかに気をつけよ。また駅の荷置き場にどういう荷が置かれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。
❷村でも町でも新しく訪ねていったところは必ず高いところへ登って見よ。そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮やお寺や目につくようなものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ。そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへは必ず行って見ることだ。高い所でよく見ておいたら道にまようことはほとんどない。
❸金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。
❹時間のゆとりがあったらできるだけ歩いてみることだ。いろいろなことを教えられる。
❺金というものは儲けるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。
❻私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえに何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十をすぎたら親のあることを思い出せ。
❼ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻って来い。親はいつでも待っている。
❽これから先は子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。
❾自分でよいと思ったことはやってみよ。それで失敗したからといって親は責めはしない。
❿人の見のこしたものを見るようにせよ。そのなかにいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。
出典:佐野眞一著『宮本常一と渋沢敬三「旅する巨人」』(文藝春秋刊)
▼図書喫茶カンタカのInstagram
https://www.instagram.com/kantakajpn/
▼写真は当日の様子。
